東京地方裁判所 昭和57年(特わ)3452号 判決 1983年2月28日
裁判所書記官
安島博明
本店所在地
東京都豊島区上池袋四丁目四六番一三号
角一興業株式会社
(右代表者代表取締役角田正徳)
本籍
東京都港区高輪二丁目一二番地
住居
東京都港区高輪二丁目一四番一四号
高輪グランドハイツ三〇九号
会社役員
角田正徳
昭和一二年五月一八日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人角一興業株式会社を罰金二〇〇〇万円に、
被告人角田正徳を懲役一年に
それぞれ処する。
被告人角田正徳に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人角一興業株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都豊島区上池袋四丁目四六番一三号に本店を置き、不動産の売買等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人角田正徳は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人角田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の外注加工費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和五三年九月一日から昭和五四年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三七五四万〇六七五円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年一〇月三一日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八一〇七万三四七一円でこれに対する法人税額が三一〇四万八四〇〇円(但し、課税留保金額に対する税額を除く。)である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一七二六号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億一二九九万七〇〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)と右申告税額との差額八一九四万八六〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人角田正徳の当公判廷における供述
一 被告人角田正徳の検察官に対する供述調書四通(昭和五七年一〇月七日付、同月八日付、同月一二日付及び同月一四日付)
一 収税官吏の被告人角田正徳に対する質問てん末書
一 検察官、被告会社、被告人角田正徳及び被告人らの弁護人宮原功作成の合意書面
一 亀田兼夫(二通)、大石行伸、桜井、久島五郎及び新井清弘の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏の柏原千恵子に対する質問てん末書
一 収税官吏作成の売上高、商品仕入高に関する各調査書及び土地重課税計算書
一 検察事務官作成の事業税認定損に関する捜査報告書
一 豊島税務署長作成の証明書
一 東京法務局豊島出張所登記官作成の登記簿謄本一通、昭和五六年四月二五日及び昭和五四年三月三〇日各閉鎖した役員欄の用紙の謄本各一通
一 押収してある法人税確定申告書一袋(昭和五七年押第一七二六号の1)
(法令の適用)
被告人角田の判示所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
さらに、被告人角田の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示の罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金二〇〇〇円に処することとする。
(量刑の事情)
本件は、不動産の売買等を業とする被告会社において、一億五六〇〇万円余の所得を秘匿し、八一〇〇万円余の法人税を免れた事案であって、そのほ脱率は、所得において六五パーセント、税額において七二パーセントに及んでいる。その犯行の動機として、被告人角田は、顧問税理士から被告会社の今期の所得が約二億五〇〇〇万円と告げられたが、利益は商品の仕入に回していたので、在庫商品はあっても現金がなく、納税資金の準備ができなかったこと、また、納税額を少なくして、その分を事業につぎ込み、被告会社の発展のための基礎固めをしたかったことである旨供述している。しかしながら、納税資金の準備がない場合には、延納あるいは分割払等の対応措置が税務行政上認められているのであり、また、会社の発展の基礎固めのために脱税をしても良いといういわれは全くなく、本件動機が格別斟酌するに値しないことはいうまでもない。犯行の手段方法においても、被告人角田は、架空の外注加工費を計上したうえ、その一部につき取引業者と通謀して内容虚偽の領収証を作成し、その余についても内容虚偽の会計伝票を作成するなどしていたものである。そして、本件犯行が、顧問税理士から適切な指導、助言を受けながら、それに従わずに敢えて行われたものであることなどを考えると、被告人角田が納税を軽視していたことは明白であって、その刑責を軽視することはできない。
しかしながら、本件は単年度の起訴に終わっているうえ、申告期限直前になって架空計上の工作に及んだもので、それほどの計画性もない。また被告人角田は、本件について逮捕・勾留され、現在では自己の軽卒な行為を反省し、今後は正しく納税する旨供述し、すでに修正申告を行ったうえ諸税の一部を納付し、残余分についても間違いなく納付することを誓って努力していること、被告人角田には、昭和四四年に道路交通法違反罪で懲役三月、昭和五一年に業務上過失傷害罪や建築基準法違反罪で各罰金刑にそれぞれ処せられた以外には前科がないこと、その他諸般の事情を考慮して、主文のとおり量刑する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 原田敏章 裁判官 原田卓)
別紙(一) 修正損益計算書
角一興業株式会社
自 昭和53年9月1日
至 昭和54年8月31日
<省略>
<省略>
別紙(二) 税額計算書
会社名 角一興業株式会社
自 昭和53年9月1日
至 昭和54年8月31日
<省略>